ホーム

制作者より

東京大学大学院教育学研究科の平島雅也助教、野崎大地教授が、「軽微な忘却は運動指令を最適化する」と最新の研究成果について、 昨年6月29日の東大での記者会見で語っておられます。 忘却というと、人間のネガティブな一面と受け止められがちですが、ひょっとしたら忘却は人間がポジティブに生きていくために根源的に備わっている “心の安全装置”なのかもしれません。 ふとギリシャ神話の黄泉の国にあって、その水を飲むとすべてを忘れてしまう“忘却の川レーテ(Lethe)”を思い出します。 しかしながら、私たち地震工学・防災工学に関わる者はこの忘却という人間の本性に抗って、つらい震災の記憶と向き合い、 これを風化させずに次の世代に伝えていかなければならないという困難な宿命を担っているのかもしれません。

私が東京大学生産技術研究所に赴任して退職するまでの26年間、43の被害地震の153回の調査に関わることになりました。 退職という区切りの年にこれらをまとめようと振り返ってみたのですが、いざ整理を始めてみると自分で撮影したはずの写真の場所も思い出せず、 また覚えていたはずの大事なことまで忘れていることに愕然といたしました。 このままでは埒があかぬと考え直して、私の東大生研での26年間の後半の努力が、 地形に残された地震痕跡を残すことに傾けられていたことに思い至りました。 海外の地震被害の調査では地震記録すらなく、地形に残されたメッセージを読み解くことが数少ないできることの一つと感じたからでした。 そこで今回、地形に残された地震痕跡を皆様に空中から俯瞰していただける形で整理してみました。

本サイトには以下の2つの震災の記録が Google Earthのフライオーバー映像として収載されています。
1. 東京湾岸液状化地盤沈下マップ[1]-[4] 2011年3月11日東北太平洋沖地震 (M9.0)
2. 中越地震による標高変動マップ[5]-[8], 2004年10月23日中越地震 (M6.8)
フライオーバー映像で次々に出現するプレースマークには被災の写真や解析データが添付されています。 またこのマップ作成のベースになりましたディジタルデータの一部と、他の震災の記録についても可能な範囲で収載いたしました。

集約したマップやディジタル記録は、国内外の論文誌で発表してきたものです。併せて以下のウェブサイトからダウンロードできるような形での整備も進めてきました。

しかし、書棚に積み残された未整理資料は未だに膨大です。 これからも、忘れていたことを少しずつ思い出しながら、資料に手を加え開示していく作業をこつこつと進めていかなければと考えております。 それが当初思い描いた千里の行程に遠く及ばずとも、皆様のご理解とお力添えをいただいて少しでも前に進められるのでしたらこれに勝る喜びはありません。 これからもよろしくお力添えのほどお願い申し上げます。

小長井 一男

謝辞

ここに収載された地図、写真、データは小長井がこれまでに関わった研究・調査成果に基づいています。この研究・調査には下記が含まれます。

  1. 土木学会派遣地震被害調査、日本地震工学会派遣地震被害調査、文部科学省突発災害調査
  2. 文部科学省科学技術振興調整費「活褶曲地帯における地震被害データアーカイブスの構築と社会基盤施設の防災対策への活用法の提案」2005-2007
  3. 文部科学省科学研究費基盤研究(A)「地震後長期に継続する地形変化の科学的調査と復興戦略への反映」2008-2010
  4. 文部科学省科学研究費基盤研究(A)「地震断層沿いに生じる地盤のラグランジアン変位の抽出と防災対策・国土保全への反映」2011-2013
  5. 生産技術研究奨励会「東日本大震災被災者支援・復旧・復興等社会ニーズ対応研究・調査」2011-2013
これらの活動を通して数えきれない方々のご支援をいただきました。土木学会、日本地震工学会、地盤工学会、ダム工学会、文部科学省、国土交通省、農林水産省、外務省、JICA、新潟県、長岡市、浦安市、中国地震局、パキスタン・ムザファラバード市、地震復興庁(Earthquake Reconstruction and Rehabilitation Agency)など、組織名だけでも枚挙に暇がありません。改めて心より感謝申し上げます。

参考文献

液状化沈下マップ関係
  1. Konagai K., Kiyota T., Suyama S., Asakura T., Shibuya K. and Eto C., 2013. Maps of soil subsidence for Tokyo Bay shore areas liquefied in the March 11th Off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake", Soil Dynamics and Earthquake Engineering, 53, 240-253.
  2. Konagai K., Kiyota T., Asakura T., Suyama S., Shibuya K. and Eto C., 2011. Subsidence map of the Tokyo Bay Area liquefied in the March 11th Great East Japan Earthquake, 15th World Conference on Earthquake Engineering, Sept. 24-28, Lisbon, Portugal.
  3. Konagai K., Asakura T., Suyama S., Kiyota T., Shibuya K. and Eto C., 2011. Soil subsidence map of the Tokyo Bay Area liquefied in the March 11th Great East Japan Earthquake, Proceedings of the International Symposium on Engineering Lessons Learned from the 2011 Great East Japan Earthquake, March 1-4, 2012, Tokyo, Japan, 855-864.
  4. 朝倉徹,須山翔太,小長井一男,江藤稚佳子,渋谷啓一, 2012. 航空レーザー計測による液状化地盤沈下マップの精度評価と浦安市の地盤と構造物変位の状況, 土木学会論文集A1, 66(1), 1278-1284.
中越地震関係
  1. 文部科学省振興調整費事業, 2005-2007.「活褶曲地帯における地震被害データアーカイブスの構築と社会基盤施設の防災対策への活用法の提案」, 土木学会.
    http://active-folding.iis.u-tokyo.ac.jp/
  2. Konagai, K. Earthquake-induced soil displacements and their impact on rehabilitations, Proc., Japan Academy, 87(8) (Ser.B), 433-449, 2011.
  3. Konagai, K, Takatsu, S. Kanai, T., Fujita, T., Ikeda, T. and Johansson, J.: Kizawa tunnel cracked on 23 October 2004 Mid-Niigata earthquake: An example of earthquake-induced damage to tunnels in active-folding zones, Soil Dynamics and Earthquake Engineering, 29(2), 394-403, 2009.
  4. Konagai, K, Fujita, T., Ikeda, T. and Takatsu, S.: Tectonic deformation buildup in folded mountain terrains in the October 23, 2004, Mid-Niigata earthquake, Soil Dynamics and Earthquake Engineering, 29(2), 261-267, 2009.

空から見るために